シドニアの騎士

 

宇宙モノのハードSF。アニメ化もされたように、いい意味で大衆受けする要素が散りばめられているな〜というのが第一印象。マイベストSFがBLAME!の自分にとっては弐瓶勉の先鋭化された部分が削がれてしまった印象は否めなかったが、ラブコメや人間的なコミュニケーション、お決まりの展開といったこれまで避けられてきた要素が加わることによって、緻密なハードSFの核を保ちつつ多くの読者を納得させ感動を与える物語に昇華している。作品内の記号の捉え方によって、これはエヴァであり、ガンダムであり、ナウシカであるのだが(そう感じさせるオマージュか全編に散りばめられている)、そういった要素を作者自身が楽しむ余裕も垣間見せつつ、圧倒的画力とデティールへのこだわりによって誰にも到達しえない凄まじい世界観を切り拓いている。性の捉え方についても興味深い表現が多く、旧時代的なセクハラ、サービスシーンが定期的に出現する一方で、無性別の個体や未知の生物との恋愛的感情や交配が本筋に強く相関する形で描写されているのは前衛的である。そのシルエットを「恥部そのもの」と蔑まれた本作のヒロインつむぎは愛おしさに溢れている。過去作とのクロスオーバーも多く、重力子放射線射出装置やヒ山のシルエット、映画化されたヒグイデなど、これまでのファンを楽しませる工夫もなされている。が、それにしても、こんなに真っ白な構造物ばかり出てくる作品を誰が予感しただろうか?復物主によって弐瓶勉も生まれ変わったと考えざるを得ない。何はともあれ、弐瓶先生が楽しんで作品を描いているだけで僕は嬉しいです。